伊勢新聞

2017年11月4日(土)

▼秋の叙勲で旭日双光章を受章した元教育委員の井村正勝氏が語っている。同じ教育委員の女性が障害を持つ自分の子が「害人」と呼ばれ、いじめられていた。「とんでもない。何とかして阻止を」という思いで「害」をひらがな表記にすることにした

▼教育委員長だった時の話だ。知事部局は検討中で、国が漢字表記だから行政文書がダブルスタンダードになると、障害福祉課は難色を示したが、再選を目指す野呂昭彦知事が公約の中にひらがな表記を取り込んで、なし崩し的に決着した

▼国は今も漢字表記。行政文書がダブルスタンダードでは児童生徒も混乱しないかと聞いたら、井村さんは「いじめられている子どもがいる以上、せめて教育委員会の中でだけでも、いじめる側に回らない」。行政の都合などは二の次みたいな鼻息だった。知事部局も採用したと知って驚いていたが、思えば市民の良識で参画する行政委員会委員らしくはあった

▼ひらがな表記が是か非かは当事者団体も割れていた。是は「害人」「害児」などのいじめ対策。非は、ひらがな表記にすることで障害者対策をしたかのように錯覚されては困る―。障害者権利条約の国連採択前のことだ

▼「いまはどこでもそう」と井村さん。県内でひらがな表記は定着したが、懸念された障害者対策はどうか。障害者差別解消法が施行されて行政機関には「合理的配慮」が義務づけられたが、1年を経て8割近くが知らないとの調査結果を内閣府はまとめた

▼最低賃金の障害者除外規定存続など法の矛盾も残る。教育現場のお粗末さも地方紙などが伝えている。