伊勢新聞

2017年11月1日(水)

▼台風21号の被害救済に、大紀町が玉城町へ職員を派遣した。「大紀町でも被害が出た中」と玉城町長が謝辞を述べたのに対して大紀町の谷口友見町長が何か語ったとは伝えられていないが、心中「武士は相身互い」とつぶやいていたのではないか

▼武士同士、互いに助け合い、協力し合わねばならないという意味だが、今は「武士」という階級はない。「困ったときはお互いさま」が現代風だが、谷口町長には「武士は相身互い」の方がよく似合う

▼床上、床下浸水被害を多数出して災害救助法の適用を受けるとはいえ県内二例目。被災者生活再建支援法も適用され、災害で運ばれてきた土石や竹木などの障害物や、住居が全壊、半壊したためのがれき撤去は対象だが、大紀町が取りかかったという水に漬かった家具など、大量の「震災ごみ」の分別、撤去などはどうか。ボランティア活動の対象として世間の注目を集めにくいのが二番手、三番手の災難で、結果的に取り残され、長く苦しむことになる

▼玉城町も大紀町も同じ度会郡として災害時の相互協定はあろうが、被災しない自治体はなし。人口、職員数で小さい大紀町がいち早く乗り出したのは「義理と人情とやせ我慢」が信条の谷口町長らしい

▼玉城町は朝日新聞社創設者村山龍平の生誕地で、町は名誉町民に指定。平成七年の阪神大震災の時は、被災した兵庫・芦屋の村山家復旧に職員を派遣している。情けは人のためならず。村山家からは知らないが、大紀町は復旧のめどがつくまで、職員を一日あたり20人体制で派遣するという。巡り巡って戻ってきたか。