伊勢新聞

<まる見えリポート>女性「消防士」 三重県内でも登用進まず

【「男性と一緒に働く覚悟が必要」と語る宮坂さん(手前)=津市一志町高野町で】

女性の活躍を推進する動きが三重県や三重県内市町で広がる中、女性の登用が進んでいない職業がある。消防吏員、いわゆる「消防士」だ。全国的に、同じ公務員の警察や自衛隊、海上保安庁と比べて、群を抜いて少ない。それは県内でも変わらないようだ。県内消防関係者は「女性を差別して採用していないわけではない」と説明するが、施設環境の整備など自治体が努力できる面でも遅れている。

県内には4月現在で、消防吏員が2540人。うち女性は56人で、2・2%と全国平均の2・6%を0・4ポイント下回る。名張▽亀山▽鳥羽▽熊野▽菰野―の5市町の消防本部と三重紀北、紀勢地区広域の両消防組合は女性吏員がいない。

女性消防吏員の少なさは同じく24時間体制の激務をこなす警察と比べても歴然としている。平成28年4月現在で、県警職員のうち女性職員の割合は9・5%。同じ年度の県内全域の消防吏員のうち女性は2・0%と4分の1以下だった。

女性の消防吏員がいない消防本部に理由を尋ねると「そもそも採用試験に女性が受けに来ない」「平等に審査しているが、採用試験で合格しない」などの回答があった。いずれの消防本部も「女性だからと差別して採用しないわけではない」と強調する。

施設環境などハード面の遅れも見られる。女性専用のトイレや泊まり業務のための仮眠室、浴室がない消防本部がいまだに存在する。「過去に採用試験を受けた女性が、女性専用の設備が整っていないことを知って途中で辞退した」という消防本部もあった。

その一方で、女性消防吏員の必要性は認める。「女性には特有の柔らかい印象があり、女性や子どもの傷病者に怖がられにくい」(四日市市消防本部関係者)。現場で働く女性消防吏員も「救急搬送の際など女性がいてよかったと感謝されることがある」と話す。

消防庁は、女性消防吏員が全国的に少ない点を問題視。「住民サービスの向上や多様な視点で捉える組織風土の醸成に女性消防吏員が必要」として、平成27年7月、全国の各都道府県知事に女性消防吏員の割合を38年度までに5%へ引き上げるよう求めた。

要請を受け、県内の各消防本部は施設改修に合わせて女性専用のトイレや浴室、仮眠室などの整備を開始。採用試験を受ける女性の人数を増やすため、説明会で女性も採用していることをアピールしたり、女性向けの一日インターンシップも始めた。ポスターやパンフレットにも女性を積極的に採用している。

ただ、消防庁の要請する38年度の目標値はまだ先の話という雰囲気は否めない。そもそも消防は体力や技術を鍛え、命がけで活動する職場のため、女性より体力のある男性が圧倒的多数を占める現状は問題ないという考え方も根強く残る。

津市消防本部で平成12年度に女性として初めて採用された宮坂千秋さん(41)はいまや白山消防署一志分署で副分署長を務めるが「男女平等だからこそ同じ働きが求められる。現場では命がかかっており、一人でも力が不十分だと(患者などが)死んでしまう」と仕事の厳しさを語る。

消防庁は女性消防吏員の比率を10年間で倍増させるため、全国の消防本部に女性の採用者数を27年度の2―2・5倍以上に引き上げるよう求めているが、宮坂さんは「5%にするためにただ女性の採用数を増やすだけではいけないのではないか」と、数字が先行することに疑問を投げ掛ける。県内自治体は女性の割合を増やすことが喫緊の課題となっているが、能力ある人材を求める現場の声にも耳を傾けたい。