伊勢新聞

2017年10月23日(月)

▼「許せない。過失運転致死傷罪でしか立件できないのは釈然としない」と、危険運転致死傷罪に問えないことに捜査関係者が苦渋の表情を浮かべたんだそうな。いにしえの新聞記事だと聞かされたパターンを思わせ、口元がゆるんだ

▼残酷な事件に「猛者ぞろいの刑事も目をそむけた」とか、罪を犯した事情に同情して「鬼の刑事の目にも涙」、また「さしもの刑事も口あんぐり」。犯罪を憎む、あるいは罪を憎んで人を憎まずの警察官の心情に記者も共感しているニュアンスを感じさせる

▼東名高速道路で、あおり運転の末に夫婦を死なせたとして逮捕した容疑者の罪状である。「許せない」「釈然としない」のは、一瞬にして両親を奪われた2人の子どもであり親族であり、あおり運転で怖い体験をしている全ドライバーの約半数だろう。「車間距離不保持」での摘発が昨年約7600件。9割は高速道路だというのに、あおり運転がうちどのくらいか、分析されていないのだから

▼一般道が1割というのも、市道、県道にわたり約40分、追いかけられた体験者しては釈然としない。対向車線を猛然と走って追い越して停車させ、運転手を引きずり出すのを見たこともある。「許せない」のは、そんな現場をよく知るはずの警察官が、重大な事故の発生で初めて気づいたように唇をかむ姿だ

▼危険運転致死傷罪はもちろん、飲酒運転の厳罰化も遺族らの熱心な運動で実現した。使い勝手が悪いのは警察の知見が生かされていないからではないのか。一つ一つの事故に何思う。数さえ減らせばいいというものではあるまい。