救急車を呼んだものの受け入れ先がなかなか見つからない、「動き出さない救急車」と言われてきた三重県津市の救急医療問題。関係者らの取り組みで、医療機関の選定にかかる時間は少しずつ縮小されてきている。ただ、現場のマンパワーに頼っている現状も浮かび、根本的な解決の糸口は見つかっていない。
(津市政・森川静香)
市では10病院が輪番を組み、毎日2カ所の医療機関で救急搬送される患者の受け入れ体制を整えている。加えて、けがや骨折などを診る整形外科も毎日1カ所が対応している。
さらに、土曜日の午後2時から10時までを担当する土曜輪番、原因が多岐にわたる腹痛に特化した腹部輪番といったバックアップ体制をとっている。
市消防本部などによると、平成28年の搬送件数は1万4716件。うち、10回以上受け入れ先を照会したのは60件あった。27年は127件で、半減している。
一一九番通報から患者を医療機関に収容するまでの平均時間は42・6分。27年の全国平均39・4分と比べると約3分長い。搬送時間が長くなる傾向は、面積が711平方キロと広大で南北に長い地形が一因と考えられる。
一方、医療機関の選定に30分以上かかった割合が3・8%と、県内他市町の0・0―1・5%に比べて突出している。照会先の病院が「処置中」や「専門外」などで受け入れが困難な時には、当直以外に要請せざるを得ない。2次救急を小規模の民間病院に頼っているため、ベッドや医師数に限界があり、安定的な受け入れ体制がとれていない。
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市もただ手をこまねいているわけではない。今年4月には西丸之内に市応急クリニックを開設。毎夜間と日曜日、祝・休日の昼間、1次救急を担っている。輪番体制を充実させたり、救急車の適正利用を呼び掛けたりもしている。
救急設備への投資も施策の一つ。19年には、救急隊員が取った心電図を医療機関に伝送し、医師がリアルタイムで確認できるシステムを導入した。県内では唯一、第一線で活動する全救急車に配備している。
8月1日には新型に更新。モバイル式で、救急隊員は傷病者を移動させずに心電図を取って送ることが可能になった。これまではパソコンだったが、医療機関ではタブレットで見ることができるようになり、迅速な診断やスムーズな受け入れにつながっている。
「タクシー代わりに救急車を呼ぶ」といった不適正な利用が問題視されてきたが、市民の意識にも変化の兆しが見られる。軽症者の占める割合は23年の55・1%から28年には51・7%へと改善した。
市地域医療推進室は「市内の数値は少しずつ改善している。土曜輪番を取り入れてから、土曜日の照会回数はかなり減った。弱い部分から改善していくことの積み重ねだ」としている。
一方、市内のある医師は「輪番体制といった小手先のシステムでは決して埋められない政策課題を痛切に感じている医療者は多いと思う」と警鐘を鳴らす。
高齢化が進み、今後も救急搬送件数は増加する見込みだ。市消防本部の担当者は「全国的には状況が悪くなってきている。(市は)何とか今のラインで踏みとどまりたいというのが、望みというか希望だ」と現実を見据える。
行政と現場の間には、まだ温度差が感じられる。いかに安定した仕組みを構築していくか、市がしっかりかじを取って考えていくべきだ。