伊勢新聞

2017年10月1日(日)

▼細野豪志元環境相が「三権の長を経験されたような方はご遠慮いただいた方が」と、野田佳彦前首相らの「希望の党」合流を拒否する考えを示したことに、同前首相は「先に離党していった人の股をくぐる気は全くない」

▼「背水の陣」で知られる中国・漢の三傑の一人、韓信の若いころの逸話、股くぐりの故事を踏まえた発言だろうが、韓信の方は、町の乱暴者から股をくぐれと強要され、無用の争いは避けたいと恥辱に耐えた。野田氏は「素志貫徹」すなわち志を抱き続けて努めれば道は開ける、が座右の銘としながら、恥辱に甘んじることを拒んだ

▼韓信はのち故郷の領主となり、乱暴者を呼び出して大望のある人間の身の処し方を諭したが、政治家たるもの、一度〝臆病者〟のらく印を押されたら致命的、と判断したのかもしれない

▼三傑のもう一人は、政治的補佐役としても知略抜群の張良だが、高祖劉邦がライバル項羽を破って天下統一したころ、部下に不穏な動きが広がった。利害得失で従ったが、次は自分らが切り捨てられるという不安が、謀反の気持ちを起こさせたらしい

▼驚いて高祖が相談すると、張良は高祖が一番憎い部下で、周囲もそれを知っているのは誰かを尋ね、その男に一番の恩賞を与えさせた。あの男でさえあれほどの恩賞を、と部下の動揺はたちまち治まった。安保関連法などを踏み絵にした場合、小池百合子代表への民進党議員の不信感は、火だねとして残っていくのではないか

▼党をまとめるのに、細野元環境相は張良とまったく逆の手法をとったが、比べること自体気の毒ではある。