三重県松阪市の竹上真人市長は地域振興を狙い、42・195キロのフルマラソン開催を打ち出した。「県は47都道府県でフルマラソンをしていない残り3県の1つ。ぜひとも松阪で実現したい」と意欲を燃やす。「県に1つくらいないと。スポーツ振興の面でも大事」とも語る。だが、コース決定をはじめ、長時間にわたる交通規制や大規模なボランティアスタッフの協力など課題は山積。すぐ号砲が鳴るわけではなさそう。
全国でフルマラソンは100大会以上ある。東京マラソンや大阪マラソンのように成功して大きな経済効果をもたらす大会がある一方、ランナーの数は限られているので、廃止された大会も多くある。
県内では8市町がハーフマラソンを開催しているが、フルマラソンはない。過去には東員町が平成14年まで6回開き、志摩市が17年に新市誕生を記念して実施した。
松阪シティマラソンは毎年3月に開き、27年に市制施行10周年を記念してハーフマラソンを新設したところ、エントリー数は過去最多の2926人に上った。コースは同市山下町の市総合運動公園を発着点に櫛田川沿いを走る。29年大会は登録2642人のうち、ハーフが1337人と半分を占めた。
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竹上市長は27年の市長就任後、フルマラソンを開催したいと表明。全国から大勢の走者を集め、経済波及効果や市のPRを狙う。「松阪路を体感できるコース」「松阪ならではのおもてなし」を検討している。
実現すれば県唯一のフルマラソンとなる。先月6日の「知事・市長の1対1対談」で、鈴木英敬知事は「大いに期待している。審判員など競技団体への協力依頼や調整で支援したい」と歓迎した。ただ、「お金の支援はちょっと難しいかなと思っています」と付け加えた。
開催時期について、竹上市長は同31日の市総合教育会議で、「あしたにでも始めたいが、クリアしなければならないハードルが相当高いと最近分かってきた」と説明した。「松阪は国道23、42号など交通の結束点が多く、長時間通行止めにできない。それを回避しながら、しかも松阪らしいコースだから難しい。ボランティアの応援が非常にたくさん要る」と述べ、準備は「数カ月レベルでなく年単位」と見通した。
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楠谷さゆり市議は38歳の時にテニスのトレーニングがてら飯南町の茶倉マラソンに初出場して優勝し、感激して走り始め、ハワイのマウイマラソンではゴール直前でコースを間違えた五輪メダリスト有森裕子さんを抑えて優勝してしまった。
経験から楠谷市議は「どんなマラソン大会にしたいのかはっきりさせないとターゲットが定まらず、長続きしない。初心者でも楽しめる大勢が参加する大会か、平たんで記録を狙える大会か」「たくさん来てもらおうとするなら制限時間を長くしないと。ホノルルマラソンは制限時間なしで、沿道でずっと応援してくれる。ものすごい観光資源になっている」と話す。
「スイーツマラソン」はコース上の「給スイーツ所」に並ぶケーキが食べ放題で人気。フランスのメドックマラソンはワインを飲みながら走り、米国のサンディエゴマラソンは沿道でロックバンドが演奏する。楠谷市議は「目玉としたいもの、新たに売り込みたいものを戦略的に作ればいい。いっぱいお土産をもらえると女性はうれしい」と助言する。
また、名古屋国際女子マラソンを走った時、交通規制で待たされた運転手から「お前ら何様や!」と罵声を浴び、へこんだ思い出がある。通行止めの影響を受ける沿道市民の協力が欠かせない。「『松阪マラソンを走ろう会』をたくさんつくって市民の参加を増やすべき」と提言する。
28年に実施した市民意識調査では「フルマラソンの開催をめざすことに賛同する」が51・0%で、かろうじて半数を超えた。地元の理解と圧倒的な参加でフルマラソン開催を迎えたい。