伊勢新聞

2017年8月29日(火)

▼「運転免許自主返納者だけでなく、同伴者一人までのバス運賃も半額にしてたそうだね」「うん、同伴者も対象にした優遇策は全国で初めて。ただ乗るバスがない」―というのは、高齢者の免許返納に協賛する三重交通の優遇策に対し知人らが話していたブラックジョーク

▼全国初の画期的な社会貢献策をちゃかすのは恐縮だが、来年3月をめどに存続危機という三重交通のバス路線「鈴鹿四日市線」を報じた本紙『まる見えリポート』で、悪い冗談を思い出してしまった

▼休日利用の半数は高齢者というが、記者が体験乗車した金曜午後の往復各四人の乗客も高齢者だったらしい。近鉄駅などもある同市神戸の85歳男性が廃線に諦め顔なのに対して、病院や買い物で週三、四回利用するという84歳の女性は鈴鹿市高岡。路線の国道1号に近いが、団地などが建つ郊外の住宅地で「切実な問題。廃止されたらどこにも行けない」と深刻だ

▼75歳以上の免許返納率が全国最下位というのもうなずける。郊外に拡大した住宅政策の反動で社会から置き去りにされようとしているのだ。昨年10月に中二男子が暴行死した現場、鈴鹿市の公園は住宅団地の中心部。かつて子どもを遊ばせる住民でにぎわった。今は高齢者中心でショッピングセンターも撤退。公共交通機関の便は悪く、空き家が増え、住民は孤立を深める。公園に人影はない

▼朝日町の中三女子死亡事件とも共通する。いじめや暴力の側面からだけで事件を見ることはできない。高齢化社会の都市機能をどう維持するか、県政の課題として待ったなしである。