▼日本がレスリング王国になったのは、一気に五人の金メダリストを誕生させた昭和39年の東京五輪からだ。ほかに銅メダル一個で、以後五輪のたびにレスリング選手はテレビの人気者だったが、いつのまにか女子の躍進の影になってしまった。二度目の東京五輪を三年後に控えた世界選手権で、男子復活の兆しの金二個。その先頭に躍り出たのが、フリースタイルで36年ぶりに金を獲得した桑名市出身、57キロ級で高橋侑希選手である
▼女子は、69キロ級の土性沙羅=松阪市出身=、55キロ級の奥野春菜=津市=両選手の金と、53キロ級の向田真優選手=四日市市=の銀の三メダルで、高橋選手の金で計四個。県自身も、確実にレスリング王国にのし上がった
▼吉田沙保里選手に続き、土性、奥野の二人の金メダリストを育てた一志ジュニアレスリング教室の存在にあらためて感じ入る。技術、特に攻めの姿勢は開設者吉田栄勝さん(故人)の教えだろうが、勝負の世界で付きものの迷いや悩みの振幅が、他の選手に比べて小さく見えるのは、沙保里選手という説得力のある見本の存在であろう。栄勝さんの教えと素直に吸収して実践してきた揺るぎない自信が、才能を開花させたのではないか
▼その二人を間近に見てきた教室の後輩の中にポスト沙保里の多くの原石が自身を磨き続けているに違いない。決勝の残り十秒で逆転負けを喫した向田選手は自力で再び強い精神力を築き上げ、東京五輪金への道を歩み出すことになるのだろう。高橋選手は、その壁を軽々と乗り越えたということか。五輪が、急に身近に感じられてきた。