三重交通(本社・三重県津市)が運行するバス路線「鈴鹿四日市線」が、利用者の減少に伴う赤字増大により、存続の危機にある。三重交通は、1便あたりの乗車人数が現在の約2倍の17人程度まで改善しなければ、来年3月に同路線を廃止する予定。運行区間の鈴鹿市と四日市市は、同社とともに利用を呼びかけている。
(蔵城洋子)
「鈴鹿四日市線」は近鉄四日市駅を起点に、国道1号を通って終点の近鉄鈴鹿市駅までを結ぶ、路線延長10・9キロ(片道)。通学、通勤や国道沿いの大型店への買い物客らに利用されている。現在は平日6・5往復、休日4往復する。1便の平均乗車人員は9人。
三重交通によると、正確な記録はないが、同線は昭和27年以前から運行されてきた。利用者数は昭和40年代をピークに減少。年間利用者数は平成26年度が約4万2千人、同27、28年が各約3万7千人と減少は続く。
赤字路線となり、平成26年度までは国と県の運行補助を受けて路線を維持してきたが、利用者減で補助要件を満たすことができず、27年度以降は運行補助の対象外に。運行にかかる費用の約半分にあたる700万円程度を三重交通が負担しているのが現状という。当初三重交通は、今年3月の廃止を決めていたが、存続を希望する両市が、補助金の平均額となる約270万円を負担することで、廃止は1年間延長された。
同社バス営業部の同線利用状況調査によると、平日は四日市市立河原田小学校の児童の利用が全体の3割を占め、四日市市日永四丁目のショッピングセンター「日永カヨー」周辺の通勤や買物客の利用もある。休日利用の半数は高齢者という。
同部乗合営業課の小瀬古恵則課長(39)は「利用者数の減少は全県的な傾向」と前置きした上で、「公共交通であることは承知している。毎年危機感を持ち、少しずつ見直しを重ねての現状。廃止ありきではなく、苦渋の選択」と同線の現状を説明。さらに、大きなマイナス要因として「鉄道との併走」を挙げる。「起点から終点まで、近鉄は片道350円。バスは560円で、通学需要が取り込めなかった」。
鈴鹿市都市計画課によると、沿線となる神戸、河曲、一ノ宮地区の人口は約1万5700人。市は地域世帯向けに、存続の危機を訴える回覧文書を配布したほか、地区の自治会長会議に三重交通とともに参加し、現状説明や呼びかけを進めている。
伊藤保敬総務・交通政策グループリーダー(47)は「公共交通機関の一つとして、今残さないと難しい」と危機感を募らせるが、「手応えはいまひとつ」と頭を抱える。「中には『仲間で当番を決めて順番に乗る』と提案する自治会長もいたが、負担を強いるのは本末転倒。選択肢の一つとしてバスを利用してほしい」。
四日市市都市整備部都市計画課によると、乗降の中心となる河原田地区の人口は約4900人。長年バス通学の歴史を持つ大治田一丁目地区の児童は、現在約15人。小学校まで片道約2キロの道のりについては、市教委が「徒歩圏内」と判断しており、廃止に伴う市の代替交通は考えていない。同校のPTA役員会の場へ市と市教委で訪ね、現状説明と保護者への理解を求めたという。三重交通とともに、自治会会議での現状説明も実施した。
路線バスを担当する同課の須川卓哉さん(30)は「市の大事な公共交通の一つとして捉え、利用促進を啓発している」と話す。
今月18日。現状を確認するため記者も鈴鹿市駅から近鉄四日市まで、往復でバスに乗ってみた。午後の時間帯は往路、帰路とも記者含めて各4人が乗降。やはり目標値には満たない。
バスの中で利用者に話を聞いた。病院や買い物で週3、4回利用する鈴鹿市高岡の女性客(84)は「利用者にとっては切実な問題。廃止されたらどこにも行けない」と悲観する。月1回の通院に利用する同市神戸の男性客(85)は「無くなると不便になるが、仕方が無い」と諦めの表情を見せた。
残りはあと半年。小瀬古課長は「住民に知ってもらうには両市の協力が必要」と話し、「今後の利用状況調査の推移を見ていく。赤字が解消されれば路線として成り立つ」と期待を込めた。