三重県は7月、農産物の国際的な安全規格「GAP(農業生産工程管理)」を取得する生産者の増加を目指す「みえGAPチャレンジ宣言」をした。東京オリンピック・パラリンピックが開催される平成32年までに認証取得件数を現在の23件から三倍超の70件に増やすことを目標に掲げた。農産物の輸出拡大が狙いだが、審査費用がかさんだり、認証を助ける指導員の不足など、課題も浮上している。
GAPは、第三者が生産物の安全性を保証するため、生産者に食品安全▽環境保全▽労働安全―の三分野で基準を設ける制度。欧州で始まり、いまや農産物の輸出には必須条件になりつつある。国際規格のグローバルGAPや国内版のJGAPなどがある。
GAP取得では、まず生産履歴を記録する。適切な農薬の使用や作業時の保護具の着用などのチェック項目に従って農場を点検し、問題点があれば改善。審査会社に申し込み、取り組みを評価してもらう。農水省によると、認証取得まで半年から一年ほどかかる。
国は、人口減で国内の食市場が縮小するため、アジアへの輸出拡大を目指す。環太平洋連携協定(TPP)で、農産物をめぐる国際競争が激化することも懸念。「国際市場で『日本の農産物は安全』という言葉は通用しない」(農林水産省の枝元真徹生産局長)と言い、第三者による“お墨付き”としてGAP認証取得の必要性を強調する。
国内では、今年3月までに約4500の生産者が同認証を取得。東京オリンピック・パラリンピックの大会組織委員会が、選手村などでの食材調達基準にGAP取得を求める方針を示して以来、各都道府県が認証取得を生産者に働き掛ている。
県農産園芸課によると、県内では、今年7月までに23件の生産者がGAPを取得。22件はJGAP、一件はグローバルGAPを取った。23件中16件が茶農家と、茶業界の取得が顕著。大手飲料水メーカーが調達基準にGAP認証を導入し始めたためだ。その他の生産者も東京五輪や輸出をにらみ、また大手スーパーが食品の調達基準に同認証を導入し出したのを受けて、対応を進めた。
県は、GAP認証を取得する機運を県内で醸成しようと、7月24日に津市で県GAP推進大会を開催。生産者と農業関係団体、県などが一丸となってGAP認証の取得に挑戦しようと鈴木英敬知事らが、みえGAPチャレンジ宣言を出した。
同課は「推進大会の開催もあり、県内でGAP認証の研修を開いてほしいという要望がかなり増えた」と手応えを感じている。大会に参加した農業高校などからは、JGAPより難しいグローバルGAPに校内で挑戦したいという意見も出てきたという。
県内でのGAP認証の拡大には、いくつか壁がある。一つは審査にかかる費用が約10万―数100万円と安くない点。取得後も毎年審査があり、足踏みする生産者もいる。もう一つは指導員が枯渇している点。県内でGAP認証の指導経験があるのは二人だけだ。
県は現在、GAP認証にかかる費用に補助金を出すなどの予算措置は打ち出していない。国はグローバルGAPの初回審査費をほぼ全額補助するが、翌年以降の更新費用は生産者が払う。100万円単位の金額を単独の生産者で賄うのは困難なため、団体認証を奨励している。県は、指導員を40人に増やすため、研修会の受講料を負担するなどしているが、果たして32年までに間に合うかどうか。