【津】鈴木英敬三重県知事は6月、県立一志病院(津市白山町南家城)の民間移譲方針を撤回すると表明した。公営の継続に津市からは安堵(あんど)の声が上がる一方、運営形態をどうするかは現在検討が進められている。津市が今後、経営に参画する意思を示すかどうかが、議論の行く末を握りそうだ。
同院は津市の山間部に位置し、白山、美杉地域では唯一の入院できる施設。総合診療医7人が常勤で働く。平成28年度、1日当たりの患者数は入院が38.1人、外来が85.1人だった。
総合診療医の県内育成拠点として、初期・後期研修医や医学生の受け入れに取り組んでいるほか、看護師を志す学生の研修の場にもなっている。
「(診療圏の)面積は非常に広いが、人口は津市の5%ぐらい。ビジネスモデル的には効率が悪い。少ないマンパワーで、なるべくこの地域に住み続けてもらう体制をとらないといけない」。四方哲院長が語る。
四方院長は24年9月に就任した。病床の有効活用や在宅医療の推進などに取り組み、翌25年度には決算の黒字化を達成した。
例えば、受け入れ可能な救急搬送者はなるべく同院で治療しようと、救急隊員が直接、日当直医に電話できるようにした。救急搬送の時間短縮や搬送者数の増加につながっている。
在宅医療では、訪問診療や訪問看護、訪問リハビリテーションに加え、薬剤師による訪問薬剤指導、栄養士による訪問栄養指導も実施している。
今年4―6月の延べ患者数は、訪問診療が252人、訪問看護が646人、訪問リハビリテーションが456人、訪問薬剤指導が10人、訪問栄養指導が22人だった。
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県立病院は現在、四院ある。総合医療センター(四日市市)は地方独立行政法人化し、志摩病院(志摩市)は指定管理者制度を導入、こころの医療センター(津市)は県営を続けている。一志病院に関しては22年に民間移譲の方針を固めたが、今年6月に取りやめを発表した。
県地域医療推進課によると、総合診療医や看護師、介護職員の人材育成機能は県が担うとしている。ただ「地域の医療を県がするのは検討する必要がある」と、県市の役割分担の見直しを示唆する。
16年に市が合併するまでは複数市町が診療圏だったため、広域性があった。現在の患者は8―9割が白山、美杉、一志町の住民。市外は5%以下にとどまっている。また、決算状況は黒字だが、一般会計からの繰入金は3億円以上になる。
一方の津市。前葉泰幸市長は会見で、同院について「医療、福祉、介護の連携拠点。われわれの責任である福祉分野にもっと関与していくという提案は、これからもしていける」と話した。
市のスタンスを「今ある人的資源で、もっと訪問看護をしてもらうとか、介護予防のために地域を回ってもらうとかをしてくださるのであれば、事業費を出す」と説明し、連携する事業への支出には前向きな姿勢を強調。その上で「ただ単に経営参加と言われると筋が違う。共同経営では、もともとない」と述べ、経営への参画には難色を示している。
運営形態について、県から津市への正式な打診などはまだない。県は、県と市、三重大でつくる「津市白山・美杉地域における在宅医療・介護の提供体制等に関する検討会」で議論するとし、6月29日に初会合を開いた。
次回は8月22日に開き、地域包括ケアシステムの目指すべき姿や各主体の役割、取り組み方向などについて話し合う予定だ。その後、今年中に報告書骨子をまとめ、運営形態について一定の方向性を決める。
同地域は高齢化、過疎化の〝先進地〟。今後の地域医療を考える上でも議論の着地点に注目が集まる。