▼稲田朋美防衛相には自民党政調会長時代も含め業界の会合で二度ほど講演を聞いた。論旨の明確さと歯切れのよさに〝安倍晋三首相の秘蔵っ子〟といわれるだけあると感心した。おやっと思ったのは、国会で過去の発言との矛盾を突かれ、涙ぐんだ時だ
▼冷静さに疑問を感じたのもだが、裁判官に「乗り降り自由」の金言がある。一度主張した論理でも、別の主張に理があると思えばこだわりなく乗り換えていいというルールだ。法曹界の弁護士出身である稲田防衛相は、前言変更については職業上の心構えが備わっているはずと思っていたからだ
▼学校法人「森友学園」の国会審議で、関係を明確に否定しながら代理人弁護士としての出廷記録が明らかになり、歯切れのよさが実は勢いの赴くままだったかという確信に変わった。弁護士としても、最低限の慎重さを持ち合わせていなかった
▼都議選での自衛隊の政治利用ともされる応援演説も、本来が軽率な性格だとすれば納得がいく。日報隠ぺい問題も、説明に信が置けないのは当然の帰結だ
▼涙が国会で問題になったのは平成14年。田中真紀子外相が外務官僚と対立し〝けんか両成敗〟で事務次官とともに更迭された。今回も防衛事務次官らが辞任する。事務方トップの辞任で「防衛相が責任を取るのは当然」の声が防衛相経験者から。官邸筋は「仮に稲田氏が報告を受けていても、隠ぺいではなく事務方の判断ミス。監督責任だ」
▼稲田氏が日報問題で「シビリアンコントロール(文民統制)が効いている」と語った実態がどういうものか、分かるような話である。