伊勢新聞

2017年7月22日(土)

▼さすが伊賀市だと思ったのは、個人的感慨に過ぎない。20年ほど前に前身の旧上野市に赴任した時、たまたま市社会福祉協議会で在宅ケアグループの職員を取材し、その明るく、行き届いた活動に感心した。昨年見学した同市の特別養護老人ホームも、入所者の快適な生活に心を砕いているように見受けた。その伊賀市が特養の虐待を認定した。が、指摘は虐待という言葉の持つ深刻さとほど遠い

▼一部の入所者にナースコールを設けていなかった、週二回以上の入浴基準も下回っていた―など。暴力や嫌がらせなど、報道で知る虐待例はない

▼施設長の「(ナースコールの)コードが体に引っかからないようにするための対処でもあった」という釈明と「未設置が虐待に当たるとは知らなかった」という施設の説明が食い違うし、「身体的拘束に当たるという認識がなかった」というのも含めて、専門家の言うせりふかという気はする

▼ナースコールの未設置はもちろん、呼んでも無視したり、返答が遅れるのも、現在の基準では身体的虐待であり、ネグレクト(介護放棄)だ。職員が少なくなる夜間対応として見回り時にはコール連動の無線機携帯を職員に義務づけている施設もある。「税金を受け入れてお世話しているわけだから、緊張感は不可欠」と津市のある施設長は言う

▼入浴回数については「丁寧に介助しようとすると時間がかかる」「職員が休むと手が回らなくなる」。緊張感は、なるほど感じられない。深刻な虐待の温床は作られつつあったのかなという気もする。市の虐待の認定に感心するのである。