国民一人一人に十二桁の番号を割り振るマイナンバー(個人番号)制度で、県内二十九市町(約180万6000人、約72万5000世帯)の「個人番号カード」の交付率が五月末現在で7・02%にとどまっていることが県への取材で分かった。七月に国や自治体間の情報連携が始まり、今秋には行政機関同士の情報連携と個人サイト「マイナポータル」の本格運用も開始予定だが、浸透率は低い。
(水野志保)
マイナンバー制度は、社会保障や税に関する行政の効率化や不正受給の防止などを目的に導入された。平成二十七年十月から各世帯に個人番号を知らせる「通知カード」を順次配送し、昨年一月からは顔写真付きのマイナンバーカードの交付が始まった。
マイナンバーカードは、個人番号の確認と身元確認が一枚で済む証明書として発行している。県内での交付率は五月末で全国平均(9・07%)を2ポイント下回り、南勢・東紀州で低い。最も高かった東員町で9・55%、最も低い紀宝町では、4・42%だった。
県市町行財政課は「マイナンバーカードの取得は義務ではなく、国からも交付率の目標値は今のところ出されていない」としつつ「カードを作りたいと思ってもらえる魅力が弱い。市町で独自にサービスを考えるにしても限界がある」と指摘する。
交付率を向上させる策として、独自のサービスを企画したのは津市。マイナンバーカードで発行する高齢者向けの電子バスカードを考案した。同市市民課の担当者は「コミュニティバスの無料乗車サービスを付けたため、高齢者からの交付申請は増えた」と語った。
コンビニ交付サービスの導入で交付率の向上を期待するのは四日市市。コンビニ店にある端末からマイナンバーカードや住民基本台帳カードで住民票の写しなどを入手できるサービスで、来年度の開始を予定。すでに県内では七市町が導入している。
県によると、本年度以降にコンビニ交付の導入を予定しているのは四日市市を含め六市町。その一方で導入に尻込みする自治体も。県市町行財政課は「高齢化や人口減少の進む地域ではコンビニ交付の需要は低い。システムの維持費も壁になっている」とした。
県内で最も早く導入したのは鈴鹿市で、二十六年二月から開始。同市の担当者はコンビニ交付の普及について「年々微増しているものの、窓口申請がいまだに多い。カードの交付もコンビニ交付を利用したい人は早々に済ませているので、頭打ちの状態」と話した。
カードの交付率やコンビニ交付の導入には、地域で差が出ている一方で、県内全市町で共通に抱えている課題もある。それは、転出などで本人に届かず市役所に戻ってきた通知カードの保管だ。県によると、五月末までに約7万7000通が戻ってきた。
通知カードは、マイナンバーが記載されており「個人情報の塊」(津市職員)。多くの自治体は人の出入りが制限されている部屋で、鍵のかかるロッカーなどにしまっている。人口の多い自治体ほど戻ってくる通知カードも多く、保管場所にも頭を抱える。
国は戻ってきた通知カードの管理について「できるだけ保管するように」と各自治体に通知。岐阜県では自治体が独自の判断で廃棄する動きもあるが、県内市町で廃棄した事例はない。津市市民課の担当者は「廃棄しても良い影響はない」と保管を続けている。
今秋本格運用が始まるマイナンバー制度。生活保護や児童扶養手当ての申請がカード一枚で済むようになるなど手続きの簡素化が期待されるが、県内でカードの交付は順調に進んでいない。行政の効率化という目的の達成はまだ先のことのようだ。