伊勢新聞

2017年6月11日(日)

▼県職員労働組合(県職労)の支援を得て当選した野呂昭彦前知事が、その猛反対の中、かつて県職労の拠点とされた県立病院の民間移譲方針を決定へ突き進めた。自民党の支援で県庁の無駄の排除を掲げた鈴木英敬知事が、たった一つ懸案として引き継いだ一志病院の移譲をなすすべもなく断念した

▼政治家の信念というのは分からない。なすすべもなく、というのは事実に反するかもしれない。二十七年度から四回、県立一志病院のあり方に関する検討会を開いて努力してきたが「二十八年度前半までに方向性」としながら一年も先送りして、「民間が安定して経営するのは厳しい」と振り出しに戻った。結果を出せなかっただけである

▼県立病院の運営は長く県の課題だった。伏魔殿ともされた県職労の拠点に気鋭の財政課職員を送り込んだのは昭和五十年代後半。「期待の人事だ」という説明に半信半疑でノイローゼになったり、「幹部を抱き込む覚悟で」という激励に、本当に男女の仲になって物議を醸したり

▼同六十年以降は行財政改革の課題とされ、公費繰り入れ比率の見直しや、単年度赤字解消を改築の条件にするなどのてこ入れ策を経て、公設民営論が浮上した。民間移譲を目指した一志病院は引き受ける事業者がなく「当分の間県立県営」に

▼あり方検討会は「県は運営するつもりがない印象」などさながら県立存続への攻勢の場。知事もひとたまりもなかったようだ。前提の津市との共営案は前葉泰幸津市長に一蹴された感。なまなかな覚悟ではできんよという野呂前知事の含み笑いが聞こえてきそうだ。