伊勢新聞

サミット1年・成果と課題 海外、関東から観光客増 産業振興にも追い風

【観光客でにぎわう横山展望台=志摩市阿児町鵜方で】

昨年五月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)から二十六日で一年を迎える。サミットでは県内の特産品や景観が世界に発信され、観光客の増加や産業振興への追い風となった。地元では“サミット効果”を生かし、今後の販路拡大や誘客につなげる動きが広がっている。

「各国首脳が真珠を身につけてくれたことがまるで昨日のよう。今も胸に焼き付いている」―。首脳の襟元を飾った真珠のラペルピンを製作した県真珠振興協議会の覚田譲治会長(45)は「真珠産業が衰退する中、努力すれば報われるのだと希望になった」と振り返る。

サミットで発信されて以降、ラペルピンの注文が相次ぎ、売り上げは約二億円もあった。海外からの関心も高まり、生産現場を見学に来る外国人もいる。覚田会長は「真珠の美しさは世界に誇れるもの。海外への市場拡大を狙ったPR事業を展開したい」と意気込む。

夕食会での乾杯酒に選ばれた大田酒造(伊賀市)の地酒「半蔵 純米大吟醸」も売れ行きが好調だ。サミット直後から注文が殺到し、海外からの発注は前年比15%増えた。生産が追い付かず、通信販売を打ち切るほどで、来年四月までの予約待ちとなっている。大田智洋専務(50)は「サミットで知名度が上がり、注文がこれまでにないほどに増えた。たくさんの人に味わってもらえてうれしい」と話した。

首脳が囲んだ円卓に使用された尾鷲ヒノキを扱う林業はサミットでの活用を弾みに今年三月、農林水産省の日本農業遺産に登録された。森林組合おわせの大西克明さん(56)は「サミットでブランド化されたことが登録につながった。次は東京五輪で活用してもらえるよう働き掛けたい」と意欲を見せた。

県内での宿泊者数は平成二十八年、過去最高となる一千万人を突破。各国首脳が訪れた名所に注目が集まり、伊勢神宮には前年比約4・3%増の八百七十四万人が参拝し、サミット主会場の賢島や横山展望台がある志摩市阿児町では観光客数が同25%伸びた。

賢島では一年たっても活況を呈し、土産物店「以志川」では売り上げが二割伸びた。店主の岡野洋美さん(64)は「サミット以降、関東方面や海外の観客が増え、土産物をたくさん買ってくれている」と喜んだ。

賢島の活性化に取り組む岩城悟さん(37)は島内の事業者や市と協力し、サミット当時の様子を写真で紹介する取り組みを進め、サミット開催一周年にはサミットで振る舞われた地酒を楽しむイベントを企画している。

一方、「サミット開催地としての知名度はいずれ薄れてしまう」との危機感も。「今後はサミット開催地の看板に頼るだけでなく、サミットで発信された地域の魅力を生かし、観光客を呼び込む仕組みづくりに知恵を絞らなければならない」と気を引き締めた。